商店街はジングルベルの軽快なBGMであふれていて、道行く人の誰もがクリスマスのふわふわと浮ついた雰囲気にのみ込まれている。
太っちょのサンタのおじさんが子どもたちに風船を配っていた。
子どもたちは嬉しそうにサンタに手を振ってお礼をしていく。
俺も風船が欲しかったけど、子ども用だからって断られた。
中学生くらいのカップルが仲良く手を繋いで歩いて行くのをじっと見つめながら、かじかむ両手を握りしめた。
手袋をしているけれど、やっぱり冷たい。誰かと手を繋げばきっと暖かいだろう。
「賢太郎、俺たちも手ぇ繋ごうか。ほら、お手」
賢太郎がお手をするより早く、前足を取って握り冷えきった肉球を暖めてやる。
スーパーから、これからパーティですか?と聞きたくなるくらい大量のお菓子や御馳走を作るための食材を抱えた人が出てきた。
「これからパーティですか?」
「パーティだ。手伝えよ、言いだしっぺ」
両手に買い物袋をもった兄ちゃんは、どこかの主婦みたいだ。
いつか昔のクリスマスの時も、兄ちゃんはこんなふうに大量に買い物をしていた。
「ひき肉は買った?先生のハンバーグ食べたいって言ったじゃん」
「ああ、買った」
「チキンは買った?」
「買った。……お前のリクエストは肉ばっかりだな」
「兄ちゃんだって肉、好きだろ」
「まあな」
兄ちゃんは握っていた買物メモを、袋の中へ適当に仕舞った。
メモはみんなの意見をきいて煉慈が書いてくれた。
書いてある通りに買い物をして来るようにと、俺と兄ちゃんは買い出し係りに任命された。任命されたというより追い出された、の方が正しいかもしれない。
兄ちゃんはソファに座ってくつろいで何もしなさ過ぎだったし、俺は飾りつけではしゃぎ過ぎて危うくクリスマスツリーを半壊するところだった。ぶつかって倒れかけたクリスマスツリーは晃弘がすんでの所で支えてくれたから無事だったから大目玉をくらわなくて済んだ。
ワン!と白い息を吐いて賢太郎が吠えた。
寒いから早く帰ろうって事なのか、それともスーパーの入り口でたむろするなって事なのかわからないけど、とにかくここから動こうとグイグイとリートを引っ張ってきた。
「行こう、兄ちゃん」
「おい、待てよ。袋、片方持ってくれ」
「ええー。俺は賢太郎のリード持たないとだし……」
「いいから持てよ」
「じゃあ軽い方で」
大量のお菓子が詰まった袋を持たされた。
こんなにたくさんのお菓子を咲と一緒に全部食べたらきっとみんな驚くし、すごく怒るだろう。考えただけでわくわくするけど、こんな日に怒られたくないからやめておこう。
太陽が出ていて良い天気だけど、吹き付ける風はキンキンに冷え切っていて顔が痛い。
俺はマフラーに顔を埋めて歩きだした。
「兄ちゃんがクリスマスに来てくれるなんて思わなかった」
「来るつもりなんてなかったさ」
「でも、来てくれた」
「……春人が清史郎が拗ねてまた突然いなくなるかもしれない、とか電話してきたから仕方なくな」
「ふうん。俺がどこか行くの、嫌?」
春人の名前が出るのが少し癪だけど、兄ちゃんが俺の心配をしてくれたのは素直に嬉しかった。
「嫌、というか、もう学校休むな。留年どころか退学させられるぞ。学校の金を払ってくれてるおまえの家族もいい迷惑だ」
「家族……俺は兄ちゃんがいればいい」
「話をすり替えるな。とにかく心配とか迷惑をかけるな」
「兄ちゃんが毎日電話に出てくれてメールももっとこまめに返してくれて、たまに手紙を書いてくれるって約束してくれるなら」
それを約束してくれるなら、俺はたぶん勝手にどこかへ行ったりはしない。
兄ちゃんは、頭を掻きながら白い息を吐いた。
面倒くさいって思ってる。わかりやすい人だ。
「守れないような約束はしたくない」
「じゃあ、俺も。約束はしない。もし退学になったら兄ちゃんの所で一緒に暮らすもん」
「ばか。せめて学校を卒業しろ」
「卒業したら、また兄ちゃんと暮らせる?」
「さあな。おまえ次第だ。おまえが俺の言う事をきいていい子にしていれば考えてやる」
「良い子にはするけど、期待はしないでおく」
兄ちゃんは俺が「期待してる!」と言うと思っていたのか、ぽかんと小さく口をあけている。
押してダメなら引いてみなって誰かが言っていた。瞠だったかな。
「……まあ、とりあえずこれ以上人に迷惑をかけてまわるな。……たまになら手紙を書いてやってもいい」
「本当?約束な!破ったらワインな!」
「ワイン?」
「ううん?なんでもない」
ワンワン!と賢太郎が吠えた。鼻先にひんやりとした冷たさを感じた。
「雪だ」
空がどんよりとしたねずみ色の雲に覆われて、さっきまで顔を出していた太陽がどこか見えないところに隠されてしまった。立ち止まって雪が舞い落ちる空を仰いでいる兄ちゃんは、太陽を探しているみたいだった。
「隠れるみたいに、どこかに行かないでくれ」
ぼそりと呟いたつもりだったみたいだけど、声が思いのほか響いたことにはっとしたようで兄ちゃんはまた頭を掻いて息を吐きだした。照れ隠しなのかもしれない。
「兄ちゃん、手ぇ繋ごう!」
「は、え?」
俺は手袋をコートのポケットにしまって手を出した。寒さで指先が震える。兄ちゃんの冷えきった手をぎゅっと掴んで歩きはじめた。
「俺が勝手にいなくならないように、兄ちゃんがつかまえていてよ」
ふたりで繋いだ手は冷たいままだ。この手が暖かくなるまで、ずっとこのまま手を離さないで歩き続けよう。




ネヴァジスタ3周年おめでとうございます!
ずっとずっと大好きです?愛してます…( ?ω? )


◆ 真夏
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