去年のクリスマスは最悪だったから今年は華やかに行こう。
そう言い出したのがその状況を作り出した当の清史郎で流石の俺も一発叩きたくなった。
実際軽く叩いたけど清史郎は気にすることなく相変わらずその大きいキラキラした目で計画を語っている。
「兄ちゃんも呼んでさ。でっかいクリスマスツリー飾ってパーティーするんだ!」
「パーティーは良いけど。男ばっかりって既に華が無いよね」
「男子校で求める方が間違ってるだろ」
ハルたんの抗議混じりの突っ込みも、レンレンの至極全うな意見も無敵状態の清史郎には通用しない。
隣に行儀良く座っていた(今日はマッキーが遅いからこっそり中に入れたみたいだ)賢太郎を持ち上げぎゅっと抱き締めると賢太郎は一言鳴いて清史郎の手をぺろりと舐めた。
「で、皆に指令リスト作ってきたから当日にこれ持って参加すること!」
「指令リスト?」
「たとえば晃弘は、クリスマスツリーの手配!でっかいの持ってきてなー」
茅さんはきょとんした目「クリスマスツリーは何処に売ってるんだろう」と呟く。俺はアマゾンのサイトを後で見せてあげようと思った。
清史郎は弾んだ声で勢い良く喋り続けている。要求は甘いケーキ、色とりどりのご馳走、愉快なパーティーゲーム。どれも賑やかな夜には必要不可欠なものばかりだ。
俺は何を求められるのだろうと緊張しながら背筋を伸ばした。だって俺は何も持っていないから。
そして最後。清史郎の視線が俺を貫いた。
「で、瞠はさー。 … ……」

「それって清ちゃん暗に来るなって言ってるんじゃないの」
誠二の容赦ない相槌は俺の心に突き刺さった。あるいは突き落とされたのかもしれない。
「清史郎はアンタと違って回りくどくないからそれならそれではっきり言うよ」
「じゃああの子の計算ミスだ。俺は行かないって分かってるでしょ」
予想はしていたけど、想像通りの誠二が想像通りに無碍に断ってくるとやっぱりダメージはでかい。
清史郎の出した俺への指令は「誠二を連れてくること」だった。ちなみに俺は兄ちゃん担当な!と笑顔で宣言されたときはこいつそれが言いたかっただけじゃないかって思って、そして今でも若干疑っている。
教会に来る子供達用のちょっとしたおもちゃを作る手を止めず誠二は俺を一瞥した。
「瞠君も意味の無いメッセンジャー役辞めたらどう」
「だって……」
言葉が尻すぼみになっていく。空気が悪くなるのも恐れず駄目もとで確認したのは清史郎の期待を裏切りたくなかっただけじゃない。
灯火のような願いが自分自身にも有った。ここでの最後のクリスマスへの招待状を誠二に送りたかったんだ。
けれど誠二は当たり前のように断りの文句を口にする。まるで俺がここを離れることなど何でもない日常のひとコマみたいに。
「……分かったよ」
絞り出すような声に隠しきれない落胆の色が混じっているのが分かる。
瞠君、と誠二が呼んだけれど誠二がどんな顔をしているかなんて見たくなかった。
だから俯いた顔は上げずそのまま足を扉へ向ける。
期待した俺が馬鹿だった。普段ならこんなにショックなんて受けないはずなのに。何でだろ。クリスマスだからかな。きっとそうだ。
何でも良いから理屈をこねくり回して、とにかくこの部屋から出たかった。
でも誠二はもう一度俺を呼んだ。聖書を朗読しているときみたいな声で。
「瞠君」
「……っ!何だよ!」
涙混じりになった情けない声色に被せるようにわざと声を荒げる。それでも虚勢を張っているようにしか自分には聞こえなかったけれど。
気付いているのかいないのか。果たして誠二はため息混じりに続けた。
「そのパーティ、どうせ賢太郎も来るんでしょ」
「……そうだけど」
「じゃあ言っておいてよ。槙原先生を潰して使い物にならなくさせといてって。あの人酔ってるといつもの三倍以上面倒だし」
「………」
俺はドアノブに掛けた手をゆっくりと外した。振り返ったけれど誠二は背中を見せたままだ。
「遅くなって良ければ少しだけ顔を出すよ」
それで良い?と問われて咄嗟にこくこくと頷く。うっかり声を出すのを忘れて不審に思ったのか誠二がやっとこちらを見た。
俺の狐につままれたような顔を見て、彼はそっと笑い出す。毒が有ることなど感じさせない綺麗な笑い方だった。
そして考えてみれば去年は何もあげられなかったからね、と付け加える。
そう、散々だった一年前の十二月。目を閉じれば今でもありありと蘇る最悪な思い出達はまだ胸の奥に棘として確かに残っている。ともすれば杭になる痛みとして。
けれどそれを一瞬でも打ち消してくれるような喜びがふつふつと湧いてきた。
多分誠二は敢えて日付が回ったくらいに来るんだろうなと思った。捻くれ者の誠二らしく。
それでも良い。甘いケーキも、色とりどりのご馳走も、背丈ほどの大きなクリスマスツリーもただの添え物だから。
『この子の名前は瞠です』
たったひとつの俺の持ち物を贈られた十八年前のように、きっと数ヵ月後の別れの季節を素敵に彩ってくれる思い出になることを確信した。

「……有難う、せいちゃん」
せいちゃんはどういたしまして、と少し照れ臭そうに言った。

We wish you a Merry Christmas, We wish you a Merry Christmas, We wish you a Merry Christmas, And a Happy New Year!




まだまだ知ったばかりの新参者ですがこうしてお祝いの言葉を述べることが出来て嬉しく思います。
こんなにも愛すべき作品、そして愛される作品に出会えて本当に幸せです。
TARHS様、ファンの方々に最大限の感謝を込めて。有難うございます。
これからも末長くよろしくお願い致します。


◆ とうこ
◆ @sism0
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