「そろそろだな」
 賢太郎は煙草の火を灰皿に押し付けて消した。
 時刻は午前2時を回ったところで、賢太郎の向かいに座る槙原は眠そうに目蓋を落としている。
「お前が寝てどうするんだ」
 思わず呆れながら賢太郎は槙原の肩をゆする。そうすると彼ははっとしたように目を開いてから時計に目を向けた。
「あ、もう2時過ぎたんだ」
「ああ。だからもういいだろう」
 賢太郎は槙原の部屋にある机の下に目をやった。隠されるようにして置いてある紙袋の中には、靴下が6つ入っている。


 プレゼントをあげようと言ったのは槙原で、どうせやるなら悪戯じみたことをしたほうが楽しいと笑ったのは賢太郎だった。
 大きな靴下にプレゼントを入れて、それを枕元に置く。サンタクロースの真似事だ。受験生だからとクリスマスパーティーを早めに切り上げた後、子供たちが眠るのを待つ。念のために幽霊棟のマスターキーを持ち出して賢太郎と槙原はそっと子供たちの部屋を回ることにした。
「変なところで躓いたりするなよ」
「わかってるよ。津久居君こそ物音立てたりしないでよね」
 小声で言い争いながら、歩を進める。最初は3階――茅の部屋からだ。
 高校生になった彼らにとってサンタクロースはずっと遠い存在だろう。こっそり枕元にプレゼントを置くのは身近な大人の役割だといつの間にかわかっている。
 けれども――わかっていたってクリスマスの朝に枕元のプレゼントに気付くのはとびきり素敵なことではないだろうか。
「どうせならサンタクロースの衣装も用意しておけばよかったね」
 槙原は高揚した気分を隠しきれずに目を輝かせると、同意を求めるように賢太郎を窺う。
「いい加減静かにしろよ」
 口ではそう言いつつも、賢太郎の顔にも楽しげな表情が浮かんでいた。
 そっと部屋のドアノブを回す。些細な物音に顔を見合わせ、抜き足差し足で部屋に忍び込む。静かな空間では心臓の音さえ気になった。クールにサンタクロースを演じるにはまだまだ修行が必要らしい。
 茅の枕元にプレゼント入りの靴下を置くと、槙原は声を出さず「メリークリスマス」と茅に向かって投げかけた。

 明日の朝、プレゼントを見つけた時の子供たちの顔を槙原は想像する。驚いた後で、きっと笑ってくれる。すぐに犯人に思い至るだろうけど、賢太郎も槙原もすっと呆ける準備は出来ていた。




図書室のネヴァジスタ3周年おめでとうございます! いろいろな想いに満ちたこの作品に出会えて本当に良かったと思っています。


◆ 藍
◆ @rannetabare
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